はじめに
会社を運営していくにあたり必ずと考えなければならない資金繰り。
会社を設立した本人などに支払われる役員報酬はあらゆる面でこの資金繰りと直結することとなります。
何も考えずに役員報酬を支払うと法人税や所得税が想像以上に生じることとなります。
そのような事態を避けるためにも今一度役員報酬で気をつけるべきポイントを見て行きましょう。
役員報酬とは?
役員報酬とは役員に対する給与を意味します。
そのため正確に「役員とは誰であるか」を認識する必要がございます。
役員については会社法において明確に規定をしており、かつ、会社法上は役員に該当しないが法人税法上において「役員」とみなす場合もございます。
会社法上の役員 | 法人税法上の役員 | |
経営方針に対する意思決定権を有している (取締役等) | 〇 | 〇 |
登記をしなければならない | 〇 | × |
共通事項の会社である経営方針を決める人員と認識すると分かりやすいでしょう。
法人税法上の役員とは会社法において役員には該当しないが、実質的に役員と同様の発言力を持っている人物を指します。そういった人物へ支払う給料も「役員報酬」に該当する点に注意が必要です。
たとえば社長の配偶者などが該当する場合がございます。
※株主が少数、かつ、役員の親族であるなどの要件に該当した場合に限る。
役員報酬はいつまでに決めればいい?
世の経営者は下記のような叫びがあると思います。
・給料なんて利益が出たら出せばいい
・利益は決算が固まるまで確定しないから自分の給料は後から決めればいい
ただ、このように考えた結果資金繰り面で大きな損失被る可能性がございますのでまずは役員報酬をいつまでに、そしてどのように決めればいいかを見て行きましょう。
役員報酬はいつまでに決めればいいか
これは「3か月以内」となります。
具体的には下記の通りです。
事由 | 日付の例 | 決定の期限 |
設立初年度 | 2020年11月5日 | 2020年2月4日 |
2期目以降 | 2021年3月31日決算の場合 | 2020年6月30日 |
役員報酬はどのように決めればいいか
原則として定款に定めた金額とする。
ただし、定款に明確な金額等の記載がない場合は株主総会にて決定がされます。
なお、一般的には後者の方法が採用されることが多いです。
このため、2期目以降は株主総会において役員報酬を据え置くか変更するかを決めることとなります。
なお、設立初年度についても設立後3カ月以内に株主総会を開催して決定をするというのが正しい役員報酬の決め方となります。
※所定の時期に開催される株主総会を「定時株主総会」、それ以外の株主総会を「臨時株主総会」と呼びます。
役員報酬の法人税法上の取り扱い
法人税法における役員報酬は下記のいずれかに該当しない場合は費用として認められません
そのため支給の方法を間違えるとその分が費用から取り除かれてしまい、税金が課税されることとなります。
法人税法における役員報酬
定期同額給与
条文
その支給時期が1月以下の一定の期間ごとである給与で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの
解説
毎月同額であること。
なお、事業年度を通じて「額面が同額」又は「手取りが同額」のいずれかであれば良い
事前確定届出給与
条文
その役員の職務につき所定の時期に、確定した額の金銭に基づいて支給する給与で、定期同額給与及び業績連動給与のいずれにも該当しないもので納税地の所轄税務署長にその定めの内容に関する届出をしていること。
解説
・支給日が決まっていること
・支給する金額が決まっていること
・これらの決定事項を税務署に提出していること
が条件。
一般的には賞与のことを指します。
業績連動給与
一般的に大企業など大量の株主がいる法人が対象と成るため本項においては割愛します。
費用にならないとはどういう意味か】
前提
・当期の売上…10,000,000円
・当期の諸費用…9,000,000円
・内、役員報酬…5,000,000円
正しく決定・支給をした場合 | 上記①~③に該当しない場合 | |
売上高 | +10,000,000円 | +10,000,000円 |
諸経費 | ▲9,000,000円 | ▲9,000,000円 |
経費にならない役員報酬 | – | +5,000,000円 |
差引利益 | 1,000,000円 | 6,000,000円 |
上記に対する法人税 | 300,000円 | 1,800,000円 |
※法人税は概算値として実効税率30%として計算しています。
上記のように誤った方法によって支給等をした場合は法人税が何倍も異なる可能性があります。
そのうえ、役員報酬は給料であるため所得税も課税されるので資金繰りが圧迫される結果となるでしょう。
役員報酬の金額はいくらにするべき?
どのようにすれば税務上役員報酬として認められるかという点と、費用にならないことのリスクが分かったところで次はいくらにするべきかを考える必要があります。
ここでは役員報酬によって影響の出る項目とその税率等を見てみましょう。
役員報酬を支給することによる因果関係
対象項目 | 変動事由 |
法人税 | 費用計上により、法人税が減少する |
所得税 | 給与獲得により、所得税が増加する |
住民税 | 給与獲得により、住民税が増加する |
社会保険料 | 給与に応じて、社会保険料が増加する |
役員本人の資産形成 | 会社にお金が留保されず、手元現金として役員の資産を形成する |
相続税 | 役員報酬を使わず貯金のみした場合、相続財産となる |
それぞれの税率等
対象項目 | 税率 |
法人税 | 実効税率 約30% |
所得税 | 超過累進課税 |
住民税 | 10% |
社会保険料 | 健康保険9.87% 介護保険1.79% 厚生年金18.3% |
本人の資産形成 | 手取りを得られる。 |
相続税 | 超過累進税率 ただし、現金は相続税の特例の適用がないため使い道を検討する必要あり |
※中小法人を前提
※所得税の超過累進税率は5%、10%、20%、23%、33%、40%、45%と推移する
※社会保険料は東京都の協会けんぽを前提
上記の図を見ると法人税として課税してしまうのが一番有利に見えます。
※給与を支給すると「所得税率+住民税率+社会保険料率」となるため。
ただ、税率だけを見て一概に有利判定は出来ないためより具体的に数字を使いながら見ていきましょう。
上記を加味した決定方法
役員報酬を決めるにあたって一番重要となるのは税率の前提となる利益、つまりは事業計画をどこまで詰めることが出来るかとなります。
これは初めの3か月で残りの9か月分の利益予測をしなければならないことを意味します。
もし事業計画において利益が5,000,000円生じる見込みであれば下記のように考えられます。
参考
・法人税=(利益-役員報酬-社会保険料会社負担分約(14.98%))×税率
・所得税=(役員報酬-社会保険料本人負担分(約14.98%)-その他控除)×税率
もし役員報酬を3,960,000円とした場合は下記のようになります
役員報酬なし | 法人税 | 所得税 | |
| 5,000,000円 | 5,000,000円 | – |
| – | ▲3,960,000円 | 3,960,000円 |
| – | ▲593,208円 | ▲593,208円 |
| – | – | ▲1,712,000 |
| 5,000,000円 | 446,792円 | 1,654,792円 |
| 1,500,000円 | 133,800円 | 84,400円 |
※給与については所得税における給与所得控除と基礎控除のみを加味しております。
※法人税率は実効税率30%で計算
※役員報酬なしの場合は別途国民年金の支払い義務が生じます
※住民税は170,400円生じます
結論
上記のシミュレーションの場合結果は下記の通りとなる。
①役員報酬を支給しなかった場合の負担金額
1,500,000円(法人税)+198,480円(国民年金)
※国民健康保険料は割愛
②役員報酬を4,000,000円支給した場合の負担額
1,575,016円(法人税、所得税、住民税、社会保険料)
このように社会保険料まで加味すると役員報酬を支給したほうが有利となる場合がございます。
ただし、役員報酬による正確な節税案は正確な事業計画があって初めて成り立ちます。
そのため事業計画をただの数字遊びとせず、決算に近しい予測を立てることが重要となります。
金額を変更する場合の注意事項
前述の通り役員報酬(定期同額給与)は毎月同額でなければなりません。
従って正しい決定時期以外の時期に変更した場合はそれ相応のペナルティが生じてしまいます。
そのペナルティとは「増額又は減額の前後における差額を費用としない」となります。
具体例
①途中で増額した場合
年間の役員報酬 – 元々の役員報酬の12か月分の金額 = 費用にならない額
②途中で減額した場合
年間の役員報酬 – 減額後の役員報酬の12か月分の金額 = 費用にならない額
終わりに
このように役員報酬とは役員本人の手取り、それに伴う所得税・住民税や社会保険料といった個人への課税と法人の所得を圧縮することによる法人税の節税、そしてその後は相続財産の形成や将来の厚生年金への影響など様々な事由へと派生致します。
決めるまでの期限、決め方法を誤ると大きな損失に繋がりかねます。
生活に直結する事項であるが故に事業計画はしっかりと練ったうえで役員報酬を決めていきましょう。