事前確定届出給与とは?期限・支給の注意点とは?

はじめに

事前確定届出給与というものを聞いたことがあるだろうか?

会社経営をしている場合において大きな節税手段となりうる本項目ですが、その内容及び注意事項を正確に把握していないと逆に大きな損失を生じることとなります。

ここでは事前確定届出給与の内容そしてその注意事項(支給するための手続き、支給の時期など)を解説したいと思います。

事前確定届出給与とは?

そもそも事前確定届出給与とは?

役員への賞与のことを言います。

ただし、役員への給与は定期同額給与に該当しない場合は費用として認められない(損金不算入となる)のと同様に、役員へのボーナスも一定の条件を満たさない限り損金不算入となります。

その条件を記述した法人税法の条文は下記の通りです。

【条文】

その役員の職務につき所定の時期に確定した額の金銭又は確定した数の株式若しくは新株予約権若しくは確定した額の金銭債権に係る第54条第1項に規定する特定譲渡制限付株式若しくは第54条の21項に規定する特定新株予約権を交付する旨の定めに基づいて支給する給与で、定期同額給与及び業績連動給与のいずれにも該当しないもの

イ)その給与が定期給与を支給しない役員に対して支給する給与以外の給与である場合 政令で定めるところにより納税地の所轄税務署長にその定めの内容に関する届出をしていること。

要約をすると、

  • 役員に支給する給与で定期同額給与、業績連動給与以外もの。(要は賞与)
  • 税務署に支給する金額と支給時期を記載した書面を届出ていること。
  • 届出書に記載した時期にその金額を実際に支給すること。
  •  

 なんで節税対策になりうるの?

前述の要件を満たして役員へ賞与を支給した場合、それは費用として認められ会社の利益を圧縮することが可能となります。

利益の圧縮が出来ればその分納める法人税が減るという結果となります。

事前確定届出給与の場合、極論利益の全額を支給して法人税を生じさせないという方法も可能となります。

※ただし、赤字でも納める必要のある税金もあるので「法人税がまったくなくなる」というわけではないです。

余談ですが、旧商法時代の「役員賞与」と呼ばれていた項目は配当と同様に利益の処分という性質であったため、そもそも費用として計上される余地がありませんでした。

これが会社法へと改正されたことにより役員賞与という概念がなくなり、法人税法において「事前確定届出給与」という名称が出来上がることとなりました。

役員とは?

事前確定届出給与は役員に対するものであるため、役員とはどのような存在であるかを把握する必要がございます。

役員とは取締役、会計参与、監査役のことを指します。

なお、社長一人の会社であればその社長本人が唯一の役員となるでしょう。

支給までの注意事項

支給をする金額及び支給時期の決定方法

一般的には株主総会にて役員へと支給をする報酬の総額を定め、各人への支給額は取締役会にて決定がされます。

そのため社長兼株主一人の会社であれば株主総会にて定めるだけで事足りるでしょう。

税務署への届出期限

事前確定届出給与においてもっとも重要となる事由です。

明確に提出の期限が定められているためもしそれを1日でも遅れれば事前確定届出給与が認められないこととなります。

2期目以降の法人

次のいずれか早い日程

  1. その事業年度開始の日から4月を経過する日
  2. その事前確定届出給与を定めた株主総会の決議の日又は職務の執行を開始する日のいずれか早い日から1月を経過する日

もし3月決算法人で株主総会を525日に開催した場合の期限は下記の通りとなる。

職務の執行開始を株主総会と同日とした場合

  1. 731
    ※41日から4月を経過する日のため4か月後の731日となります。81日でないことを注意しましょう。
  2. 625
    こっちは株主総会の日と同じ日付になるため注意。

上記の1と2のうち早い方は2となるため、この場合における事前確定届出給与の提出期限は625日となります。

4月を経過する日が7月末と油断していると事前確定届出給与が認められない場合があるので「提出期限」に関しては正確に把握しておく必要があります。

設立初年度の場合

これは一つしかなく、「設立の日から2月を経過する日」となります。

複数回支給をする場合

夏季賞与、冬季賞与など1年で2回以上賞与を支給する場合もあると思います。

その場合は届出書にそれぞれの時期に係るそれぞれの金額を記載する必要がございます。

届出書と異なる金額を支給した場合

もし事前確定届出給与として届け出をした金額と異なる金額を支給した場合、これはその支給をした金額が損金不算入となります。

例えば支給額を100万円として届出をしていたにも関わらず50万円のみ支給した場合はこの50万円全額が損金不算入となります。

反対に支給額を100万円として届出をしていたにも関わらず150万円を支給した場合であっても、支給額150万円が損金不算入となります。

つまり届出金額(この場合100万円)の範囲内で認めるのではなく、届出金額を支給した場合のみ認めるという規定となっております。

ただし、複数回支給することを決めた場合において異なる金額を支給した場合の取り扱いは上記とは異なり下記のように取り扱われます。

前提条件その1

  • 3月決算法人であること
  • 9月に100万円、3月にも100万円支給する旨の届出を提出

パターンその①

9月は適正額(100万円)、3月が不一致(50万円)の場合

→支給額150万円全額が損金不算入

パターンその②

9月が不一致(60万円)、3月が適正額(100万円)の場合

→支給額160万円全額が損金不算入

前提条件その2

  • 3月決算法人であること
  • 支給日が12月に100万円と翌年の6月に100万円の場合

パターンその①

12月は適正額(100万円)、6月が不一致(50万円)の場合

→例外的に12月の100万円は認められる。

6月の50万円は不一致のため損金不算入。

決算をまたぐ場合のみ例外的に先行事業年度分の適正額は認められる例外措置が設けられております。

パターンその②

12月が不一致(60万円)、6月が適正額(100万円)の場合

→支給額160万円全額が損金不算入

結論としては、

①異なる金額を支給した場合は基本的に支給額のすべてが損金不算入となる。

②ただし、複数回支給、かつ、決算をまたぐ場合だけ例外措置が設けられている。

届出書と異なる支給日に支給をした場合

これは支給日において「未払金」として処理をし、翌日以降に支給をした場合についてです。

考えられるパターンとして取引先からの入金が遅れてしまい資金繰りが悪化しているや銀行の窓口がお休み若しくは対応時間外で振り込みが翌営業日になった場合などが考えられます。

事前確定届出給与については所定の時期を定めて、その定めた時期に支給をしなければならないとあります。

この条文では一見すると支給日が異なる時点で認められないように思われるかもしれないが、条文において「所定の日」としていないのがポイントとなります。

つまり恣意的な利益操作に該当しない場合であればたとえ1日遅れた程度であっても税務上否認されないと考えられます。

これは事前確定届出給与のそもそもの趣旨が「恣意的な利益操作を防止するため、あらかじめ支給金額と支給時期を決めさせる」という事になっております。

旧商法から会社法への改正に伴う影響。

従って決算をまたぐことがなく、一般常識の範囲内で支給日が遅れてしまった程度であれば問題は生じないという結論となります。

なお、これをずっと未払のままにして支払いが1月後や半年後などであれば当然損金不算入となる点に留意しましょう。

役員が複数名いる場合の取り扱い

役員が複数名いた場合は各役員についてここまでに記述した事項を考慮します。

対象役員

支給状況

法人税法上の扱い

役員A

適正に支給

費用として認められる

役員B

異なる金額を支給

費用として認められない

このように役員Aと役員Bはそれぞれで判定を行うため、たとえ片方が要件を満たしていないからといってその事業年度の支給額すべてが損金不算入とならないのがポイントです。

終わりに

いかがだったでしょうか。

事前確定届出給与はその支給日・支給額の決定、そしてそれらを記載した届出書を期限内に提出をするといった手順が必要となります。

一歩間違えると税金が余分に生じるので役員へボーナスを支給する際はくれぐれも気を付けましょう。